10月1日(まえがき)
娘の昨日の夕方40℃あった熱が、朝には36℃台まで下がった。処方された抗生物質を飲んだ直後に解熱が起き、頭の中にクエスチョンが並ぶ。何が効いたのか。そもそもウイルスと細菌は何が違うのか。ここから調査ログ。
一晩で解熱——抗生物質は何をしたのか
抗生物質は解熱剤ではない。狙いは細菌の仕組み(細胞壁・リボソーム等)で、ウイルスには基本無効。ゆえに解熱は、細菌性の炎症が落ち着き始めた結果として起きた可能性が高い。ただし自然経過と重なる偶然もあり得る。抗生物質がウイルス性かぜに効かないのは公衆衛生の定番知識。(CDC)
ウイルスと細菌の“違いを一枚”
構造とサイズ
- 細菌:独立した細胞。細胞膜+多くは細胞壁、自前のリボソームを持つ。サイズはおおむね1–5 µmで光学顕微鏡の世界。
- ウイルス:細胞ではなく、カプシド(タンパク殻)+遺伝子(DNA/RNA)。リボソーム無し、自力で増えない。電子顕微鏡の世界。
→ 構造差が薬の標的差に直結。(Mayo Clinic)
増え方
- 細菌:二分裂で増殖。宿主細胞を借りずに自己複製。
- ウイルス:宿主細胞の転写・翻訳装置を乗っ取って複製。
この非対称性が、治療設計の根っこになる。(Mayo Clinic)
治療薬の射程——抗生物質 vs 抗ウイルス
- 抗生物質:細菌特有の機構を阻害。ウイルスには効かない。不適切使用は**薬剤耐性(AMR)**を加速。(CDC)
- 抗ウイルス薬:インフル・COVID-19・ヘルペスなど、ウイルス複製過程を狙う薬が領域ごとに存在。疾患・重症度・発症からの時間で使い分け。(CDC)
AMRは世界規模のリスク。誤用・過用が主要因であるとWHOは繰り返し警告。(世界保健機関)
感染経路の枠組みは共通、差は病原体特性
ウイルスか細菌かで経路が分かれるわけではない。空気を介した伝播と**接触(飛沫・汚染表面)**が大枠で、病原体ごとに優勢ルートが異なる。
- 空気を介した伝播:微小粒子(1–5 µm のドロップレット核)に乗ると長く浮遊しやすい。代表例は結核菌、麻疹ウイルス。屋内・換気不良で拡散しやすい。(CDC)
- 接触・飛沫:近距離のしぶき、汚染表面→手→口鼻目のルート。RSV・インフル・溶連菌など多くがここに載る。(CDC)
- 糞口:ノロウイルス、サルモネラ等。家庭内アウトブレイクでは環境消毒の出来が勝負。(CDC)
家庭での実装メモ(小児家庭版)
- 手洗いは石けん+流水を標準装備。アルコールに強いノロ対策も兼ねる。(CDC)
- 嘔吐・下痢時の消毒:次亜塩素酸ナトリウム1000–5000ppmで5分以上接触。拭き取りは中心から外へ、使い捨て手袋で処理。(CDC)
- 換気の徹底:空気を介した伝播のリスクを下げる基本。(CDC)
- 共有物の分離:コップ・歯ブラシ・タオルの共用は避ける(飛沫・接触ルートの遮断)。総論
受診の目安(1歳基準のラフスケッチ)
- 24時間以上発熱が続く(2歳未満)/3日以上続く(2歳以上)
- ぐったり、呼吸が苦しい、けいれん、発疹+高熱、強い耳痛や咽頭痛、脱水兆候(尿が極端に少ない 等)
- 月齢3か月未満で38.0℃以上は即受診
小児科学会系の実務ガイドでも同様の基準が並ぶ。最終判断は迷ったら受診。(HealthyChildren.org)
まとめのスケッチ
- 抗生物質は細菌の機構を狙うため、ウイルスには効かない。
- 一晩での解熱は、細菌性炎症が落ち着き始めたタイミングか、自然経過の偶然。
- 感染経路は枠組みとしては共通。差は病原体の環境抵抗性と空気中での挙動に依存。
- 家庭では手洗い・消毒・換気・共有物の分離が横断的に効く。
- AMRを避けるため、抗生物質は必要時のみ、指示通り。
参考文献・一次情報
- CDC|かぜ治療の要点。抗生物質はウイルスに無効。(CDC)
- Mayo Clinic|細菌感染とウイルス感染の違い、抗生物質はウイルスに無効。(Mayo Clinic)
- WHO|薬剤耐性(AMR)ファクトシート。誤用・過用が主要因。(世界保健機関)
- HealthyChildren(AAP)|小児の発熱、受診目安。(HealthyChildren.org)
- MSD Manual|小児の発熱の捉え方と重症鑑別。(MSDマニュアル)
- CDC Norovirus|家庭での消毒(次亜塩素酸濃度・接触時間)。(CDC)
- CDC|空気伝播(ドロップレット核1–5µm)の性質。(CDC)
- CDC Measles|麻疹の感染管理。空気を介した伝播の代表例。(CDC)


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